vol.14 電通問題の考察③(パワハラ)

電通事件は、働き方改革の流れの中で現在の論調では長時間労働による過労死問題という側面で語られることが多いのですが、実際はその根底にパワハラ問題が存在したことが同社の内部調査でも明らかになっています。今回は、一般的にパワーハラスメントという行為がどのような背景で発生するのかを考えてみたいと思います。

まず、パワーハラスメント(以下、パワハラ)とは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されるそうです。つまり、上司の立場など職場内の優位性を利用し、適正な指導の範囲を逸脱して部下を苛めるような行為をパワハラと言います。

では、パワハラに該当するのはどのような行為かというと、➀身体的な攻撃(暴行・傷害)②精神的行為(脅迫・暴言等)③人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視)④過大な要求(明らかに不要なことや遂行不可能なことを強制したり、仕事の妨害をする)⑤過小な要求(業務上合理性がなく、能力や経験よりかなり低レベルな仕事を命じたり、仕事を与えない)⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)に分類されます。

よく企業のパワハラ対策研修を行うと、必ずと言って良いほど参加者から受ける質問があります。それは具体的な事例を挙げて「こういった指導方法はパワハラに該当しますか」という類の質問です。これは上司の立場からすると一番気になる点だと思います。今ではパワハラ行為の具体例はインターネットを検索すれば容易に探すことができますので、ここでは割愛しますが、管理職には職場の業務を円滑に推進するため一定の権限が与えられていることを忘れてはいけません。上記の基本的な該当行為や事例をきちんと押さえ、部下の人格を尊重し成長を願う気持ちを持ちながら接すれば、ほとんどの場合はパワハラには該当しないはずです。確かに昔は当たり前のように行われていた指導が今ではパワハラと見なされてしまうこともあり、部下の指導・育成も大変難しい時代となりました。しかし、上司と部下の間に正しいパワハラの共通理解ができていれば、不必要に気遣いをしたり、萎縮して指導ができなくなるようなことはなくなるはずです。ですから、経営者は社内に向けてパワハラ撲滅を宣言したうえでこのような基本的な理解を促すための研修なり勉強会を開催するべきです。

ところで、最近問題になっているタイプのパワハラは、行為者側にパワハラの意図や意識がないにもかかわらず、行為者の影響力や存在そのものが結果的に部下を苦しめてしまうようなケースです。仕事での実績は申し分なく高い評価を受けていて優秀と目されている上司が加害者(行為者)となってしまい、特に真面目なタイプの部下を潰してしまうことが特徴です。比較的大企業で多く見られるパターンですので、今回の電通事件もこれに近いメカニズムで起きたのではないでしょうか。

上司は大変優秀ですから、仕事に対しては自信満々でプライドも高く、周囲から一目を置かれるので誰も反論できなくなってきます。そうなると仕事も安心して任せられるし、周囲への影響力も大きくなるため、遂には彼の上司も口を挟めなくなり、職場で”神格化”されるようになります。彼の提案は全て採用され、やりたい放題の状況となり、全ての行動が独善的になってきます。そうしたとき彼の下についた部下は悲惨です。彼の仕事のやり方が全てとなり、意見具申などできないムードの中、キャッチアップしようと必死に頑張りますが、いつかは限界が訪れることは目に見えています。真面目な部下ほど人知れず徹夜してでも仕事を仕上げて上司に認めてもらおうと頑張りますが、独善的な上司の期待水準には程遠く、無能の一言で切り捨てられてしまうため、益々精神的なダメージが大きくなって心に傷を負ってしまいます。このような上司にはパワハラの意識が全くなく、周囲から指摘を受けても「彼がそんなに悩んでいるとは知らなかった、言ってくれれば良かったのに」「徹夜してでも仕上げろなどと言ったことはない」などと涼しい顔をして意に介さないので、始末が悪いのです。

部下の悩みを聴きだして仕事の援助をしたり、労働時間の管理をするのは、管理職の重要な仕事であり、いくら業績をあげていようが、部下のマネジメントができない人には管理職の資格はありません。部下を持たないスペシャリストの道でも歩んでもらうしかありません。名選手は名監督にあらずというありがちなケースです。

 

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