vol.13 電通問題に関する考察②

電通が社員に違法な長時間労働をさせた疑いで昨年末に書類送検されたことについて、1月6日の会見で塩崎厚生労働大臣は「捜査は継続していて、社長1人の引責辞任ですむ話ではないと考えている」と引き続き捜査を進めていく考えを示しました。そのうえで「強制捜査は東京本社だけではなく、3支社に対しても行われているので、社会的な注目度と重大性を踏まえて粛々と捜査を続けていく」とも述べ、政府として高い関心をもって本件に取り組む意向を示しています。働き方改革を推進する安倍政権のスケープゴートにされているのではと見る向きも一部にあるようですが、事件の悪質性に照らせば国が本腰を入れて取り組むのは当然だと思います。

一方、昨年末に辞任を表明した電通の石井社長は、年頭の挨拶で社員を前に「問題の原因はわれわれに内在する課題から生じたものであることを真摯(しんし)に反省し、改革を不退転の決意をもって進めていく」としたうえで、「改革は経営だけの力で成し遂げられるものではなく、社員の努力と行動が最も大切な力になる」とも述べ、企業風土を変えていくために社員の協力が欠かせないという認識を示しました。

社長のコメントは、まさに私がブログ「電通問題に関する考察➀」の中で指摘したことをそのまま年頭挨拶で準えたかのような内容でしたが、この手の問題解決は経営と社員の誠実な対話を繰り返しながら、まずは事件が発生した本質的な原因がどこにあるのかを特定し、そこに対して集中的に対策を講じることから着手すべきです。大企業がこのような問題に向き合うときには往々にして周辺問題や環境整備などに手を拡げ、総花的な行動計画を作り上げただけで終わってしまい、結局本質的な解決策が講じられないことがあります。電通の場合もかつての教訓が生かされずに今回の事件に至ったプロセスを見ると、まさにそのような大企業病に侵されていたのではないでしょうか。

今回の同社の対応を見ていると、またしても大企業病を発症しているかと思わせるような動きが見られます。昨年12月22日の同社リリース「労働環境改革の進捗状況について」には、今後の取組みとして、コンプライアンスの啓蒙活動、業務平準化・要員再配置、就業形態の多様化、労務管理改善など盛沢山な施策が並べられていますが、二度と悲惨な事件を繰り返さない決意や未然に防止する対策や企業風土の変革に向けた施策は見当たりません。むしろ疑問の残る内容がいくつか見られます。

例えば、「社員のモチベーションの維持・向上」として、”2017年に前年比で減額となった残業手当は、その全額を賞与として社員に還元”と書かれています。減額分つまり労働しなかった時間に対しても報酬を支払うというのです。社員から見れば収入保障はありがたい話ではありますが、残業しなくとも前年分を保証するという、さすが電通さんらしい発想と感心しました。しかし問題なのは、2017年残業削減を達成し、それでも2016年と同等以上の水準で業績を確保したというのなら、その結果を評価して決算賞与等で還元するのであれば筋が通っているでしょう。しかし、2017年がまだ始まってもいないのに、2016年分の残業手当を賞与で保証するとは、これで電通社員のモチベーションの維持・向上を図れるのでしょうかう。昨年汗水流し時には徹夜までして働いた結果の報いが残業代だったのが、2017年はたとえ働かざるともその全額をもらえるとしたら、昨年苦しい思いをしてまで働きぬいたのは何だったのかと逆にモラールダウンを招かないか心配です。働かずとも前年分の全額をもらえるのであれば、社員はできるだけ残業を避けようとするでしょう。会社としてはそこが狙いだったのかもしれません。収入保障しておけば社員は早く退社して長時間労働問題も解消できると。そして、賞与で還元すればこの措置は2017年限りでの単年運用ができると踏んでいるのでしょう。本来、収入保障が社員のモチベーション向上の目的と謳うのであれば、月例給与に残業代を上乗せするなり、ノー残業手当などを新設するなどして、会社の不退転の決意を示すべきだと思いますが。

もう一点気になったのが、”ラインマネジメント職への360度評価を導入し、ラインマネジメント職の適性審査を実施”です。これはおそらく事件の根本的な原因である職場の上下関係やパワハラ体質にメスを入れるつもりなのでしょう。部下評価をどの程度を加味させるのか不明ですが、360度評価を導入した場合、部下の感情が直接的に評価に反映されたり、意思決定に弱くリーダーシップに欠ける”骨抜きマネジャー”を生み出すことが多々あります。部下にダメ上司を炙り出させるような制度は組織マネジメントの根幹を揺るがしかねません。電通の場合もそうでしょうが、特に自律心の高い人材が揃った企業や職場では導入の難易度が高く慎重な検討が必要です。いきなりリスクの高い評価制度の見直しという作業に手をつけ、失敗し、再び元に戻すなどすれば社員の士気は一気に下がってしまい、目も当てられません。それよりも定期的なパワハラ研修を実施したり、マネジャーの上司である二次考課者と定期的に面談するなど運用面を工夫することで、パワハラ上司を封じ込める方法はあるはずです。

他にも指摘したい点は山ほどありますが、全体的にしっかり練られていない、思い付きのような施策ばかり並べられている印象です。本気で企業風土を変革させようと思うなら、外部の第三者を交えて俯瞰的な議論が必要でしょう。企業風土やカルチャーは外から見えるものであり、内部から改革はあっという間に内部の論理に支配されてしまいます。

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