vol.11 電通問題に関する考察➀

東京労働局は、12月28日に株式会社電通と社員一人を労働基準法違反の容疑で書類送検しましたが、これを受けて同社社長が引責辞任の意向を示す事態となりました。同社はおよそ25年前にも男性社員が過労自殺する事件を引き起こし、以降会社全体で再発防止策に取組んできたとしていますが、その後も本社や支社など複数の事業所において違法残業により是正勧告を受けていたにもかかわらず、十分な対策が取られないまま昨年末に女子社員が自殺するに至り今回労基法違反が立件されたことは、悪質性が際立っていると言わざるを得ません。

政府が推し進める「働き方改革」と世論の後押しを受け、当局も異例のスピードで強制捜査を敢行して昨日の立件に漕ぎ着けたようですが、加えて労働問題に取り組む弁護士やNPOなどが選ぶブラック企業大賞も受賞するなど、ブランディングをビジネスとする電通ブランドがこうして地に墜ちる姿は見るに堪えないものがあります。しかし、私は今回の一連の処分や社会的制裁に対して当の電通本体の見解や社員の反応を見るにつけ、何か当事者意識が薄い、人ごとのように淡々としている印象を受け、釈然としない違和感を覚えてしまいました。

まず、女子社員の自殺に関してリリースされた電通側の見解は、新入社員であった点への配慮が足りずに行き過ぎた指導やパワハラと取られても否定できない行為があったと、随所に新入社員であった点を強調している点に違和感があります。これは言い換えれば、もし新入社員でなかったならば、この程度の指導は通常の業務の範囲内であった、新入社員の未熟さゆえに起きたと、さも言いたげな表現に思えて仕方ありません。

また、昨日労基法違反容疑で立件されたことを受けて発表したリリースにも関わらず、事件調査を依頼した外部の法律事務所から女子社員の自殺については電通サイドに法的な不法行為は認められなかった旨の報告を受けたとコメントしていますが、既に同社は三六協定違反や勤務時間の過少申告を認めており、さらに彼女が自殺に至った経緯をみれば、今後民事上でも安全配慮義務違反に問われる可能性もある中でこのような発言をすることが適切とは思えません。

更に、再(々)発防止に向けた取り組みについては、マネジメント体制の整備や労務管理の改善・徹底をはじめ、業務の平準化、要員の再配置、管理職に対する評価軸の見直しなど各種対策に取り組んでいるようですが、報道等での一般社員の反応を見る限りでは、現状忙しさは変わらず午後10時の館内一斉消灯後も結局仕事を持ち帰って処理している状況が見られるなど、社内の雰囲気は以前とあまり変わらないという冷ややかな声が多いようです。こうした抜け道を塞ぐことも大切だとは思いますが、会社はもっと本気になって社員に寄り添って考えなければ、25年もの間この会社に蔓延った悪しき慣習や価値観を払拭することは難しいでしょう。今のままでは何か、会社はこれだけの対策を講じているにもかかわらず、社員がルールや制度をきちんと守ってくれないと言い訳が聞こえてきそうです。

なぜ今でも社員が抜け道を探してまで仕事を処理し続けなければいけないのか、その本質的な原因はどこにあるのか、何を除去する必要があるのか、経営者は社員と正面から向き合って真摯に議論しなければ問題解決のゴールに到達するのは難しいと思います。「鬼十則」のような時代錯誤ともとれる精神論が電通社員の心構えとして存在していたことに今更ながら驚きましたが、このような背景から垣間見えるのは同社のパワハラ紛いの上下関係や荒んだ企業風土であり、労務管理などの仕組みや制度不備の問題以上に、企業・職場の風土に本質的原因が内在していることは想像に難くありません。

新人教育も十分にせず、社員の労務管理や健康状態にも配慮が足りない。部下に対しては期待以上の成果を求めるだけ。応えられずに死を選ぶほど悩むぬく部下に思いやりの心も救いの手を差し伸べることもない。そんな孤高のカルチャーに苦しんで前途ある女性社員の命が奪われたとしたら、本当に残念でなりません。

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